眼球の成長と背が伸びることって相関性があるの?

今回のテーマは「眼球の成長と背が伸びることって相関性があるの?」です。

眼軸長伸展(眼球が大きくなること)、つまり近視が進みやすい時期について、過去の記事で詳しく紹介しています。

 

近視研究の最前線

 

研究では、「5歳以降に近視が急速に進行し、6歳からの5年間で-2.0Dを超える近視化が認められ、8歳からの5年間で近視が最も進行していた」としています。

つまり、就学児において近視が進みやすいことを示唆しています。

 

ここで、ある疑問が出てきます。

 

就学児は、身長が良く伸びる時期でもありますが、眼球の成長つまり屈折度や眼軸長伸展と相関性はあるのでしょうか?

 

学童期における屈折度および眼軸長変化と身長変化の関係

小学2年生から6年生の338名776眼を対象に、屈折度および眼軸長変化と身長変化の関係を1年間経過にて調査した研究があります。

 

この研究において、屈折度は非調節麻痺下(調節麻痺薬を使用しない)にて両眼開放型オートレフラクトメーター、眼軸長は光学式眼軸長測定器を用いた測定、身長についてはアンケート調査が行われています。

 

研究結果は、男児、女児ともに屈折度変化量および眼軸長変化量と身長変化量が最大となる学年は一致しなかったようです。(1)

 

具体的には以下のようになっています。

 

男児:屈折度変化量は小学5年生、身長変化量は小学6年生で最大

女児:屈折度変化量は小学2年生、身長変化量は小学3年生で最大

眼軸長変化量:男女共に小学2年生が最大

 

つまり、屈折度変化、眼軸長変化、身長変化について、1年間経過を追ったデータを基に比較したところ、屈折度や眼軸長の変化(眼の成長に伴う変化)と身長変化が最大となる学年は一致しなかったということになります。

 

眼球の成長と身長が伸びることは必ずしも相関しない

ここからは筆者の意見になります。

 

ご紹介した研究結果が示すように、就学児における屈折度及び眼軸長変化と身長変化の最大となる学年は一致しませんでした。

 

もし、眼球の成長と身長変化に相関性があるなら、高身長な人ほど強度近視眼が多い可能性が挙げられますが、そのようなエビデンスはありません。

現に、身長178cmの私の眼軸長は24mm以下(軽度遠視)です。

眼軸長伸展と身長変化は別物と考えて良いと思います。

 

では、眼球の成長には何が影響しているのでしょうか。

 

近視の発症因子

1つは遺伝です。

両親が近視の子は、近視を発症しやすくなります。

最近では遺伝子研究が進み、近視発症に関わる遺伝子が明らかになってきました。

近視になりやすい一塩基多型(SNP)も解明されつつあります。

 

近視をはじめとする屈折異常の遺伝率は約70%と言われています。

つまり、近視の程度の7割は、生まれ持った遺伝子によって決定されています。

残りの3割は、環境要因によって発症する後天的な近視です。

(ちなみに、身長の遺伝率は約80%と言われています。)

 

環境要因による近視については、世界各国の近視研究により、さまざまなリスクファクターが提唱されています。

過度な近業作業、近業時の姿勢、屋外活動時間の減少などが挙げられます。

 

ロンドンの研究では、子供の近視発症のリスクファクターの1つに「教育レベルが高い母親」を挙げています。

皮肉なことかもしれませんが、眼の成長期にあたる小児期に学習時間が長いと近視を発症しやすくなります。

昔から、勉強を良くする子=眼鏡をかけているというイメージがありますが、あながち間違いではないようです。

学習時間が長いと、近視発症のリスクファクターである過度の近業作業に該当する他、近視進行抑制効果が提唱されている太陽光を浴びる機会が減少してしまいます。

 

これからの時代は、近視進行抑制対策を行った上で、学習することが重要になってくるでしょう。

そのためにも両親が近視進行抑制に興味を持つことが重要です。

 

勉強をする時は、デスクライトで十分な明るさにした上で、教科書との距離を30cm以上に保ち、まっすぐな姿勢をとること。

姿勢が悪く、片眼を紙面に近づけて読み書きしていると、その紙面に近づけている眼が近視化するという報告もあります。

 

また、連続して近くを見ないようにすることも重要です。

アメリカで提唱されている20-20-20のルールでは、20分間近くを見たら、20秒間、20フィート(6m)先を見ることを推奨しています。

要するに、過度の近業作業にならないよう、遠くを見る時間を作る必要があります。

 

そして、太陽光のもと屋外活動をしましょう。

1日2時間以上は太陽光のもとで屋外活動をすると良いとされています。

太陽光に含まれるバイオレットライトが近視進行を抑制することがエビデンスとして出ています。

 

これら十分な対策を行っても近視が発症してしまった場合、近視進行抑制効果が提唱されているオルソケラトロジー等の治療を始められるのも一手です。

日中を裸眼で生活できるようになることと、近視進行抑制効果の一石二鳥の近視治療法と言えるでしょう。

 

まとめ

一見、眼球の成長と身長変化には相関性がありそうですが、成育にはそれぞれ違った要因が関与しています。

世界で急増する近視人口。

眼の成長期にしっかり対策を行うことが重要です。

 

(1)Kosei Soeda,Osamu Hieda,Yo Nakamura,Yoshinori Nakai,Chie Sotozono,Shigeru Kinoshita:Relationship of Body Height Change with Changes in Refraction and Axial Length During Elementary School Age.Japanese Orthoptic Jo