老眼用SCLが小児の近視進行を抑制する?

今回のテーマは、「老眼用SCLが小児の近視進行を抑制する?」です。

老眼用SCLと言えば、遠近両用SCLのことを指し、小児とは無縁と思われがちです。

一般的にはその通りなのですが、実は今、この遠近両用SCLが小児の近視進行抑制に効くのでは?と研究が進んでいます。

遠近両用SCLの一種で、焦点深度拡張型SCLというものがあります。

焦点深度拡張型レンズ(以下、EDOF)といえば、白内障手術で用いる眼内レンズに馴染み深いワードです。

眼内レンズのうち、多焦点眼内レンズと呼ばれる文字通り“多くの焦点を持つレンズ”で、遠近(種類によっては中間も)にピントを合わせることができる眼内レンズです。

そんなEDOF技術ですが、遠近両用SCLにも採用されています。

 

EDOF SCLとは?

老眼矯正に用いられる遠近両用SCLですが、従来型は1枚のレンズに遠方度数、(中間度数)、近方度数がそれぞれ配置されていました。

EDOF SCLは、遠方度数、中間度数、近方度数をまるで木の年輪のごとく何重にも連続させることで、焦点深度拡張効果を狙っています。

この構造により、遠方、中間、近方にピントを合わせることができる上、暗闇で瞳孔の大きさが変化した時や、まばたきなどでレンズが角膜上で動いた時にも安定した見え方を得られるようになっています。

 

EDOF SCLは小児の近視進行抑制に効くのか?

海外の研究をご紹介します。(1)
概要は次の通りです。

  • 前向き、二重盲検、ランダム化にて中国での2年間観察
  • N=508名(終了時)、8-13歳で屈折-0.75D~-3.50Dを対象(年齢、屈折は開始時)
  • 単焦点群、普通の遠近群×2(Ⅰ,Ⅱ)、EDOFタイプ×2(Ⅲ,Ⅳ)にて調査
  • 単焦点群と比べると、どのレンズも近視進行抑制効果を認める
抑制

結果

TestⅠ

ADD+2.50

TestⅡ

ADD+1.50

TestⅢ

EDOF 1.50D

TestⅣ

EDOF 1.25D

屈折 24% 24% 32% 26%
眼軸長 32% 24% 25% 27%

※屈折、眼軸長は、単焦点群と比較した抑制率
※屈折:近視、遠視、乱視など眼の度数。
ここでは、単焦点レンズ群と比較し近視化がどれだけ抑制されたかを示す。
※眼軸長:眼の長さ、奥行き。一般的に、眼軸が伸びると近視化する。ここでは、単焦点レンズ群と比較し眼軸長の伸展がどれだけ抑制されたかを示す。

 

結論

EDOF SCLは、屈折の近視化抑制率が30%前後、眼軸長の近視化抑制率が25%前後認められる。

 

EDOF SCLにおける近視進行抑制作用機序とは?

EDOF SCLは、焦点深度を拡張することで、網膜上、網膜前方での見え方の質(RIQ:Retinal Image Quality)を一定以上に保つことができ、網膜後方でRIQが低下するように設計されています。

単焦点レンズと比較し、網膜後方(網膜周辺部も含める)でのRIQ低下が優位となるため、遠視性デフォーカスを低減し、近視進行抑制効果が得られるのではないかと考えられています。

オルソケラトロジーによる近視進行抑制効果については、過去の記事(子供の近視治療)でご紹介しています。

 

日本での研究はこれから

我が国における、EDOF SCLによる小児の近視進行抑制に関する研究は、これからといったところです。

すでに近視進行抑制治療としてEDOF SCLを導入している施設や、治験を行っている施設もあります。

日本でもコントロール群をしっかりおいた臨床研究、治験データの結果が待たれます。

どの治療でもいえることですが、治療効果には個人差がありますので、実際に治療をやってみないと成果は分かりません。

しかしながら、中国での研究結果からも、EDOF SCLによる小児の近視進行抑制効果はあるのではないかと筆者は考えています。

 

まとめ

中国での研究により、EDOF SCLによる小児の近視進行抑制効果が提唱されています。

単焦点レンズと比較し、網膜後方(網膜周辺部も含める)でのRIQ低下が優位となるため、遠視性デフォーカスを低減し、近視進行抑制効果が得られるのではないかと考えられています。

日本でも、小児の近視進行抑制治療としてEDOF SCLを先行導入している施設や、治験を行っている施設があります。

これからの研究報告に期待しましょう!

 

参考文献

(1)Padmaja Sankaridurg , Ravi C Bakaraju, Thomas Naduvilath, Xiang Chen, Rebecca Weng,Daniel Tilia, Pauline Xu, Wayne Li, Fabian Conrad, Earl L Smith III and Klaus Ehrmann:Myopia control with novel central and peripheral plus contact lenses and extended depth of focus contact lenses:2 year results from a randomised clinical trial