低濃度アトロピン点眼薬による近視進行抑制法

「低濃度アトロピン点眼薬」。

子供の近視進行抑制に関心があり、ネット等で調べられている方や、このサイトの記事をご覧頂いている方なら聞き覚えがあるかもしれません。

このサイトでは、過去に近視進行抑制法のページでもご紹介しています。

近視進行抑制法

そもそもアトロピン点眼薬(1%)は、調節麻痺薬(ピント調節筋を麻痺させ、屈折検査に用いる)や、虹彩炎(茶目の炎症)の治療薬として広く用いられている点眼薬です。

 

このアトロピン点眼薬ですが、世界各国の研究により、子供の近視進行抑制効果を期待できることが分かってきました。

ところが、通常の濃度である1%アトロピン点眼薬を使い続けると、種々の副作用が懸念されることから、連続して使用することは現実的ではありませんでした。

 

そんな中、1%アトロピン点眼薬の濃度を100倍に薄めた「低濃度アトロピン点眼薬」においても、同様に近視進行抑制効果を得られることが分かってきました。

「低濃度アトロピン点眼薬」は、副作用の懸念も少なく、安全に続けられる近視進行抑制治療法として注目されています。

 

アトロピンって、どんな薬なの?

アトロピンは、ベラドンナと呼ばれる植物由来の有機化合物です。

ベラドンナとは、イタリア語で“美しい女性”のことを言い、女性が瞳孔を拡張させるために使用していたことが由来とされています。

現代では、カラーコンタクトレンズ等を用いて、黒目を大きく見せることができますが、当時はアトロピンを用いて黒目を大きく見せていたようです。

いつの時代も、女性の“美の追求”はすごいですね!

 

このアトロピン点眼薬ですが、副交感神経遮断作用があります。

眼内にある瞳孔括約筋(瞳孔を縮瞳させる筋肉)および、毛様筋(ピント調節を担う筋肉)を麻痺させることにより、散瞳作用、調節麻痺作用を生じます。

 

眼に対する影響として、散瞳(瞳孔が拡張する)効果は30-40分で最大となり、約10日間程度持続します。

調節麻痺(ピント調節筋を麻痺させる)効果は、2-3時間で最大となり、2週間程度持続します。

この効果は、虹彩(茶目)の色素量により変わり、虹彩色素の多い人種ほど、効果の出現は遅く、その分、効果が消失するまで時間がかかるとされています。

 

アトロピン点眼薬を用いた子供の近視進行抑制効果

シンガポールでの研究が有名です。

子供を対象に行った研究で、1%アトロピン点眼薬を1日1回点眼し、2年間での近視進行抑制効果を調査したようです。

若干の近視進行はあったものの、眼軸長(眼の長さ)はほとんど変化なく、近視進行抑制効果が認められました。

ところが、点眼中止後1年間で、近視が急速に進行し眼軸長も伸展するという、リバウンド現象が起きました。

 

そこで、アトロピン点眼薬の濃度を0.5%、0.1%、0.01%に薄めて同様の研究を行ったところ、濃度依存性に近視進行抑制効果が得られる結果になったようですが、0.01%アトロピン点眼薬においても近視進行抑制効果が認められる結果になりました。

1%アトロピン点眼薬で生じていた点眼中止後1年間の近視の急激な進行は、0.01%では認められなかったようです。

 

これらの研究により、「低濃度アトロピン点眼薬」による近視進行抑制治療が始まりました。

 

なぜ近視抑制効果が得られるの?

詳しいメカニズムは不明ですが、種々の仮説が提唱されています。

アトロピンによる過度の調節緩和や、散瞳による強膜クロスリンキングの加速などが挙げられますが、注目されているのは脈絡膜(ぶどう膜の一種であり、フィルムに相当する網膜の外側に位置し、血流が豊富な組織)の厚みが肥厚することによる、眼軸長伸展抑制効果です。

副交感神経麻痺薬であるアトロピンが、脈絡膜血流の増加を促し、脈絡膜を肥厚させることで眼軸長を短縮させ、眼軸長伸展抑制つまり近視進行抑制効果を生じているという仮説が提唱されています。

 

副作用はゼロなの?

冒頭でお話ししたように、1%アトロピン点眼薬は本来、調節麻痺薬や虹彩炎の治療に用いられる点眼薬です。

点眼により散瞳効果、調節麻痺効果を生じます。

 

濃度を100倍に希釈した0.01%アトロピン点眼薬においても、微量ながら散瞳、調節麻痺効果が出現することがあります。

症状としては「光が眩しい」、「近くが見にくい」といったものです。

もし、治療中に上記のような症状が現れたら、治療を受けている眼科へ相談するようにしましょう。

 

また、「低濃度アトロピン点眼薬」に限らず、どの目薬においても充血、痒み、腫れなどのアレルギー反応を起こす可能性があります。

その際は点眼を中止し、眼科受診するようにしましょう。

 

注意点

「低濃度アトロピン点眼薬」は、近視の進行抑制を期待するものであり、近視の進行を完全に止めることはできません。

また、個人差がある為、治療を受けたすべてのお子様に効果が補償されるものではないことをご理解ください。

 

近視の進行抑制を狙った治療ですので、短期間の使用では効果を得られません。

少なくとも2年間の継続使用をオススメしています。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

近視人口の増加は、世界が直面している問題です。

眼の成長期にあたる子供の時期にどのような対策をするかが、とても重要です。

このページでご紹介した「低濃度アトロピン点眼薬」と「オルソケラトロジー治療」の併用は、近視進行抑制に相乗効果があることが分かっています。

大切なお子様の眼の健康の為にも、ご検討されてみてはいかがでしょうか?