今回のテーマは「なぜ、ポビドンヨードによる消毒が有効なのか?」です。
オルソケラトロジーレンズの消毒にポビドンヨードが推奨されていることについて、当サイトの記事で何度も取り上げてきました。
オルソケラトロジーガイドラインでも、ポビドンヨードによるレンズの消毒を推奨しています。
ではなぜ、ポビドンヨードによるレンズの消毒が推奨されているのでしょうか?
他の消毒液とは、何が違うのでしょうか?
今回は、ポビドンヨードをクローズアップし、有効性を解説していこうと思います。
ポビドンヨードとは?
ポビドンヨードは、水溶性高分子であるポリビニルピロリドンにヨウ素を結合させた錯化合物です。
ポビドンヨードから遊離されるヨウ素は、幅広い抗微生物スペクトルを有し、一部の芽細胞を除いてグラム陽性細菌、グラム陰性細菌、真菌、ウイルスに有効と言われています。
使用用途は広く、手術部の皮膚、口腔や眼などの粘膜にも適用されており、生体適合性に優れた消毒剤です。
ポビドンヨードの殺菌・洗浄効果は?
では、実際にポビドンヨードによる殺菌・洗浄効果はどれくらいあるのでしょうか。
本題に入る前に、オルソケラトロジーをはじめとするハードコンタクトレンズ(以下、HCL)に汚れが付着するメカニズムから見ていきましょう。
HCLには、タンパク質(ヒト由来リゾチーム、アルブミン)、脂質(オレイン酸、パルミチン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸ヘキサデシル、ヘキサデカン、スクアレン、コレステロール)などの汚れが付着しやすいと言われています。
HCLは、目に直接触れるものなので、汚れが付着するのは必然と言えるでしょう。
HCLに付着するタンパク質や脂質は、細菌の付着を助長すると共にバイオフィルムの形成を助長すると考えられています。
バイオフィルムとは、微生物がモノの表面に付着した集合体です。
数種類の細菌が増殖した膜状のもので、細菌が外的要因から身を守るために作ります。
流しや風呂場の排水口を手で触ると、ヌルっとした経験があると思いますが、これがバイオフィルムによるものです。
この“細菌の集合体”であるバイオフィルムですが、オルソケラトロジーをはじめとするHCLにも付着します。
しかも、これが厄介で、1度バイオフィルムが形成されてしまうと、通常の洗浄剤を用いたこすり洗いではなかなか汚れを落とすことができません。
バイオフィルムが形成されたHCLに対する、こすり洗いによる菌の物理的除去効果を評価した研究があります。
研究では、「HCLに緑膿菌のバイオフィルムを形成されたレンズ」と、「付着のみさせたレンズ(=バイオフィルム非形成)」を両面各30回のこすり洗いを行い、レンズ上の残存菌数を比較しています。
「バイオフィルム非形成レンズ」では、こすり洗いにより菌を約1/1000減少させたものの、「バイオフィルム形成レンズ」では、ほぼ菌を除去することができなかったようです。
これらの結果により、レンズから菌を効率的に除去するには、バイオフィルムを形成させないことが重要であり、レンズ上の汚れを適切に洗浄すること、微生物の温床となり得るレンズケースを適切にメンテナンスし、定期交換することに加え、付着菌やバイオフィルム形成菌に対して殺菌効果のあるケア用品の使用を推奨しています。(1)
このバイオフィルムが付着したレンズに対しても、優れた殺菌・洗浄能力を発揮するのがポビドンヨードなのです。
HCL用のポビドンヨード剤(オフテクス社・クリアデューSL)は、ポビドンヨード(殺菌成分)と陰イオン性界面活性剤(脂質洗浄成分)を含む液剤と、亜硫酸ナトリウム(活性ヨウ素の中和成分)とタンパク分解酵素(タンパク質洗浄成分)を含む錠剤で構成されています。
タンパク質や脂質の除去のみならず、ヨウ素による高い殺菌効果を併せ持つ製剤になっているのです。
酸化剤であるヨウ素は、バイオフィルム内部の細菌を死滅させ、バイオフィルムマトリックス自体を破壊する作用があると言われています。
具体的な作用機序は?
ポビドンヨード剤(オフテクス社・クリアデューSL)によるレンズケア方法をおさらいしましょう。
レンズをレンズケースにセットし、錠剤1錠をレンズケースに入れた状態で、液剤をケース9分目まで入れます。
キャップを閉めた状態で4時間放置すると、その間に消毒が完了します。
この時に、どのような消毒作用が生じているのでしょうか?
まず、錠剤、液剤を入れてキャップを閉めると、液中の活性ヨウ素によりレンズやレンズケースの微生物が殺菌されます。
その約5分後には、遅延放出被膜を施した錠剤から中和成分が溶解し、約30分でヨウ素の中和が完了します。
その後、4時間まで液剤中の界面活性剤と錠剤中のタンパク分解酵素によりレンズの洗浄が行われます。
レンズのみならず、レンズケースまで殺菌できて、とても安心できますね!
ポビドンヨード剤(オフテクス社・クリアデューSL)は、洗浄効果と殺菌効果を併せ持つハイクオリティな洗浄・消毒剤であることが分かります。
また、ポビドンヨードは薬剤耐性が獲得されにくいという利点もあります。
まとめ
オルソケラトロジー治療を行う上で毎日欠かせないのが、レンズメンテナンス。
毎晩目に入れるものなので、常に清潔を保つ必要がありますが、涙液などにより汚れが付着しやすいのも事実です。
レンズに付着した頑固な汚れは、バイオフィルムを形成することがあり、バイオフィルムを形成されたレンズは、通常のこすり洗いでは殺菌することができません。
このバイオフィルムが付着したレンズに対しても、優れた殺菌・洗浄能力を発揮するのがポビドンヨードです。
安心・安全に毎日のオルソケラトロジー治療を続けていくためにも、毎晩のポビドンヨードによる消毒を必ず行いましょう!
具体的なレンズケア方法はこちらをご覧ください。
(1)山崎勝秀:ポビドンヨード剤によるハードコンタクトレンズのケア.日本コンタクトレンズ学会誌2018